アンダルシアの馬と風

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BSプレミアムで「旅のチカラ」と言う番組があって、
私は時々見ている。
見ようと思って見る事は無く、偶々ついていたテレビから、そのまま流れ込んで来て
興味を引かれて、椅子に座り込んでしまうと言う事が多い。
この日は「宇津井健 80歳馬上人生を過ぐ」(11/26再放送分)であった。
80歳を迎えようとした時に、「大停電の夜に」に出演した縁で監督と親しくなり、
その時に馬の話をしていたのを覚えてくれて、
『アンダルシアの馬を見に行きませんか?』と声を掛けられた。
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アンダルシアの馬は、世界一美しく、彼の長い間の夢であった。
1度でも良いから乗ってみたい物だと、監督に話したのかも知れない。
しかし、もう長い事馬に乗っていない。
乗れると言う確信は無かったのだろうか?
馬との出会いは、早稲田大学に入学した時に、舗道を蹄で「「カッ、カッ」と
鳴らしながら練習を終えた馬術部が、帰って来てるのに会った瞬間、
彼は馬の虜に成ってしまい、踵を返して馬術部入門の手続きをした。
自分の馬を飼い、馬の為に別荘を買い。
馬との付き合いはその後長い事続いた。
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そんな彼が馬から手を引いたのは、奥様がC型肝炎に罹り、
闘病生活に入られた為に、馬どころでなくなり、馬も別荘も手放した。
「四十何年か共に暮らした女性なのだから、これ位はするべきだと思ってね・・・」
とその時を思い出す様に、何気なく呟いた彼の男らしさが
私の心の奥底にコトンと音をたてた。
闘病生活を省みて、常に現実を受け止める奥様を
「大した女でしたよ。」と感慨深げに思い出されていた。
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彼が監督の申し出を受けたのは、勿論である。
アンダルシアの町並みの美しさは、私にも彼の地への憧れを駆り立てた。
紀行番組を見てもこれ程心動かされた所は無かった。

彼とアンダルシアの馬が、初めて会った時2つの肉体は自然に触れ合い
懐かしい抱擁に浸っていた。
それを見た時、私は前にこれと同じ場面を見た事を思い出していた。
それはNHKの連続ドラマ(チャンス)で、宇津井健は競馬馬を育てる役で
年老い病気を抱えた彼は、この馬が最後と言う役柄だった。
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その馬と最後の別れに、やはり万感の思いを胸に、馬の首を抱いた。
その情の細やかさに私はうっとり見た覚えがあった。
あれは芝居であっても、彼には芝居と割り切れない場面だっただろう。
白いアンダルシアの馬は、以前からの知り合いの様に彼を背に乗せて走る。
彼は馬から下りる時に、馬に囁く
「この年老いた私を、喜ばせてくれてありがとう」と・・・・
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最後の行程で牧場主からプレゼントとして、1泊の馬に乗っての旅に出る。
昔、鉄道を引く為に作られた橋やトンネルを彼は馬と共に
時を惜しむ様に一歩一歩を刻む。
長いトンネルを前にした時、牧場種が彼に
「此処からは1人で行って来て下さい。」とトンネルの出口も見えない
暗闇を差す。
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彼も馬も戸惑う事無く、静かにトンネルの中に消えて行く。
長いトンネルを抜けた時、彼は幸福に満たされ涙ぐんでいた様に見えた。
白いアンダルシアの馬に股がった姿は、まるで奥様と佇んでいらっしゃる様だった。
彼は初めて奥様を亡くした悲しみから、解き放たれたのだと思う。
長い長い旅だったに違いない。
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死は、肉体を分つけど、
魂の融合だと思い知らされました。
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by magic-days | 2011-12-07 20:33
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