思いは物語を越えて(2)

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     「紅梅」   津村節子  文芸春秋

これは、物書きの夫婦の物語です。
夫・吉村昭さんが舌癌から膵臓癌に取り付かれ、
その闘病生活と死に至るまでの壮絶な戦いと
彼を取り巻く家族、特に妻・津村節子さんの心情が正直に
書かれている。
頻繁に「物を書く女なんて最低である。」と
自分の事を責める節子さんが、哀れで胸が締め付けられる。
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吉村昭が苦しんで居る時も、依頼された小説を書かずにおれない。
夫が自分の事を「冷たい女」と思っているだろうと
言いながらも書く事を止められない。
そう言う小説家の立ち場や性も良く書かれている。
病気に関しても、事細かく書かれている。
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癌の恐ろしさが伝わって来る。
私も理由も無く「もしかしたら、膵臓がんに罹るかもしれない。」
と思っているので(糖尿は膵臓の働きが原因だから・・)、膵臓がんの
恐さ等随分勉強に成った。
しかし、医師に聞くと糖尿病と癌の関連性は無いと一笑に付された。
それでもこの本を読んでいるときは、夜背中が痛くて
「あー、膵臓がんに罹ってしまったー」と嘆いている夢を見てしまった。
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吉村昭の自宅は、井の頭にあり私の家から玉川上水添いに30分程
歩いた所に在るらしい。
津村節子の旧友が北海道の釧路に住む原田康子と
想像させる文節を見た時、苦しい闘病生活ばかり
書かれている中で、嬉しくてホッとした。
原田康子は私が青春時代大好きな作家で、北海道に転勤で札幌に
住む様になった時、1番に声が聞きたくて電話をしたが、
「もしもし、原田です。」と言う声を聞くだけで満足して受話器を
下ろしてしまった。(ryoさんの小説のストーカーの気持が分かる。)
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この本は単に夫の闘病生活の記録に止まらず、素晴らしい文学に
昇華してある所は流石だと思う。
吉村昭の潔さもこの本を格段に上の位に導いている。
この夫有っての妻で有り、この妻有っての夫であると思う。
この本は前から読みたかったが、今ひとつ躊躇していたら、
Reiさまの感想を拝見して、読まずに居られなく成り
買い求めた。(笑

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   「落葉隻語・ことばのかたみ」  作 多田富雄  青土社

この方は免疫学者です。脳梗塞で右半身完全麻痺で言葉を発する事が出来ない
不自由な生活の上に、前立腺癌に襲われ、夜も昼も眠れぬ生活を
余儀なくされました。
しかしこの方は負けては居なかった。
リハビリが130日間で打ち切られると国から通達を受けた時、
彼は新聞に実名で国を批判し、署名を集め撤回を要求した。
車椅子で話も出来ない身体である。
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私は脳梗塞で倒れた患者にリハビリが130日で打ち切られるのは、
「社会は、もうお前等必要としないからベットの上で、
死を待てば良い。」と言っているのと同じだと言いたい。
私の義父は、やはり脳梗塞で半身不随になり、話す事も食べて物を
食道に送る事も出来ず、流動食ばかりであった。
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野菜を煮崩したカレーやポタージュ。義父はヨーグルトが好きで
その頃は珍しく自家製であった。
話せない父の気持を察するのは、大変でした。
義父も通じないのでイライラと短気に成って行った。

しかし義父は、リハビリは辛いと嘆いていた。
義母の為に頑張って続けていたと言うのが本当のところかもしれない。
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私はこの本を読む事は、当時を思い出す事が多く辛かったが、
この本はそれだけに止まらず、多田富雄さんはこれからの世の中は
辛い事に成るが、希望を捨てないで若い者が頑張っているから
大丈夫とメッセージを送っている。
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この本は新聞に連載(2年間)された
1部「落葉隻語」と、
  その後書きためた物を編集した
2部「ことばのかたみ」の2部構成である。

半身不随の不自由な身体で、前立腺癌の苦しみを秘め、
必要とあらば車椅子で駆けつけ最後の力を振り絞り、
後世の人々に勇気と希望を与えようとした人間が居た事を
忘れてはいけないと思う。
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彼は東北震災を知らずに旅立った。
私は彼の為にこれは神の最後の配慮であったと思う。
なぜ、彼はこんなに苦しみながら死ななければいけなかったか?
それは、吉村昭さんも然りである。
彼らは、それに値する何か悪い事をしましたか!?

何時のときも神の計らいは、深過ぎて私の様な凡人には
納得がいかない。
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by magic-days | 2011-11-30 09:11
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