玄侑宗久「四雁川流景」
玄侑宗久の本は、初めてです。
2001年に「中陰の花」で芥川賞を受賞された実力者です。
今回は受賞本でなく今年7月に出された「四雁川流景」を
手に取りました。
7編の短編が納められていますが、どれも四雁川に住む人々の
日常がきめ細やかに書かれています。
私が育った所も川が直ぐ傍に流れていました。
市の南の油山から、玄界灘に流れる「樋井川」と言う川です。
子供の頃は良く魚を掬いに行きました。
川辺の草むらに、山羊が繋がれて草を食べていたのを
今でもはっきり覚えています。
春には蝶、夏にはバッタ。
秋にはトンボ。
四季それぞれに、夢中で追いかけるものが有り、
真っ黒に成って、駆け回っていました。
川の傍で住む人は、何処か似ています。
この物語の人々も、昔懐かしい人々です。
「残り足」という老夫婦の話は、
何時も夫に女中の様に、こき使われていた気弱な老妻が、
人の居ない所で、病気で半身不随に成った旦那の義足を使って、
日頃の鬱憤を晴らす話は、一寸恐かったです。
どの話も何か一寸ドキッとするのです。
スリラー小説とうたってる本よりも、余程恐いと思いました。
そう言う所が、このほんの魅力の様な気がします。
私は最後の「中州」と言う話が1番好きです。
貧しく家も無い死に損ないの男が、住職に助けられて
その日その日をやっと暮らして行くのですが、
卑屈に成らず、自分の世界を作り上げて行く所が
強いなぁと思いました。
自分が死んだら、命を落とし損なった四雁川の中州に
骨を撒いて欲しいと冗談の様に言って居たのだが、
その通りの成り行きに成ります。
それでも、可哀想と思うより清々しさを感じます。
「あの世に行くのに、重たい荷物は何もいらない。
身軽が1番だよ」とガッハハハと言う笑い声が
聞こえて来そうでした。
筋を作り体裁を繕う様な本でなく、
人生の様に、1日1日を緻密に積み上げながら、
そこに住む人々の哀感を、私達に直に話す様に
書かれた様な、情の籠った本だったと思います。
何時かこの方の本を、もう1冊読んでみたいと思いました。
近いうちに・・・・
(10/19 13.126歩)
by magic-days
| 2010-10-20 21:35